先日、突如アドビ本社からモバイル版Flash Player開発中止との発表がありました。あまりにも急な上に単に決定事項だけの発表だったそのリリースはネット上で大きな混乱を巻き起こしていたのですが、それに対して「みんなちょっと落ち着け」とアドビのFlash Platform プロダクトマネージャー、Mike Chanbersが詳細な解説を自身のブログに投稿しています。
個人的には当初はサラっと原文を読み流すだけの予定だったのですが、この内容は日本のFlashコミュニティにとっても大切だと感じましたので頑張って全訳してみました(あまりにも長文だったので途中で何度か挫けかけましたけど)。一部は独自に抜粋/翻訳されてTwitterやBlog上に上がっていますが、特に後半部分、これからのFlashとHTML5の関係性についてMikeが語っている部分は必読だと思いますよ。
--ココから翻訳文------
この12,3年の間、私はFlashコミュニティの一員として(そのうちの10年以上はマクロメディア、アドビと)働いていて、その間、素敵なことも大変なこともいろいろと経験してきた。それでも、この数日間は私のキャリアの中でも最も大変な日々だったと言えるだろう。今回はここ数日に起きたニュースや、それにまつわる背景、実際に何が起こっているかという事をハッキリさせたいと思う。
まず根本的な話として、数日前にアドビは以下のニュースを発表した。
このうち最後のトピックだけが、大きな注目を集めてしまい、結果的に大きな混乱もたらし、他の話を霞めてしまった。最近の各デバイスにおけるFlash Playerの状況を鑑みると十分に理解可能な内容ではあるはずなのだが、それにしても、なぜこのような大きな方向転換をしなくてはいけなかったかという事に対して、私たちはうまく説明しきれていなかったようだ。Flashコミュニティにとってこのニュースはかなりフラストレーションが溜まるものであっただろうし、その点については謝っておきたい。私たちが先日発表したことは「これから何をするのか」という面に対しては明確だったはずだが「なぜそうするのか」という事に対してはハッキリと伝えきれていなかったと思う。
だから、長くなってしまうけど、少しだけ私につきあって欲しい。これからそれらの理由を説明し、今後のWeb上におけるFlashの役割(特にHTML5との関わり方とか)についてきっちりと語るから。
まず、ハッキリさせておきたいのは、AIRを使ったモバイルアプリケーション開発については今後も継続していくということだ。実際、AIRを使用して成功しているアプリケーションの数も増えてきている。今回、止めることになったのは、モバイルブラウザ向けのFlash Playerの新規開発。既存のデバイスに対するバグフィックスや、セキュリティアップデート、また現行バージョンの配布に関しては続けていく。そして、同時に、HTML5に対する投資を、リソース、エンジニアリング両方の面で増やしていく。この場では深くは掘り下げないが、簡単に言ってしまうと、Flash PlatformからHTML5に開発リソースが移行されるということだ。
このモバイルブラウザ向けのFlash Playerプラグインの開発を止めるという決定は、今後のアドビとしての全体戦略の一部であり、そこには、HTML5やCreative Cloudといったサービス群も含まれる。ここでは詳細については割愛するが、もし気になる人がいるのならば数日前に行われれたファイナンシャルアナリストミーティングの資料(サマリー, ビデオ) に詳しく載っているので見てみるといい(長いけど、見てみる価値はあると思う)
これがどれだけ大きな政治的テーマとして扱われてきたかということを踏まえると、この決定は決して簡単に起こったことではなかった。ただ、最終的にはこの開発に多くのリソースを割くのはベストではないと判断するに足る理由がいくつもあったのだ。
すでに分かりきったことではあるのだが、この複雑に分断されたモバイルマーケット上で、ひとつの巨大なプラットフォーム(つまりはアップルのiOS)がブラウザ上でのFlash Playerをサポートしないということは、つまり、Flash Playerがデスクトップ上で獲得している普遍的な普及率に達することはできないということを意味している。
これはつまり、もしFlashを用いたリッチなモバイルコンテンツをつくろうとするのならば、同時にHTML5版も作らなくてはいけないということだ。そして近年のモバイルデバイスにおけるHTML5への対応具合を踏まえると、最初からHTML5ベースで開発するほうが確実に理にかなっている。特にビデオ周りなどいくつかの例外はあるものの、モバイルデバイス上でのブラウザ向けリッチコンテンツを制作する場合、HTML5の方が適しているのは明らかだろう。
ここで念のためクリアにしておきたいのだが、近い将来でFlash PlayerがアップルのiOSに載るということは、私たちがどんなに頑張ってもまずありえなかった。
すでに述べてきたことと関連しているのだが、HTML5は近年のモバイルデバイスやタブレット上でかなり高いサポートを受けている。実際、モバイルデバイス上でのHTML5の普及率はデスクトップ上での Flash Playerのそれに近いものがある。そしてパフォーマンスや実装具合に関してバラつきがあるものの、現在も驚くべきスピードで改良が進んでいる。(iOS4からiOS5でCanvasのパフォーマンスはものすごく改良されたし)
ApppleのiPhoneによって切り開かれた、新世代のスマートフォンやタブレットはまだわずか数年の歴史しか持っていない。であるからこそ、これらのデバイスのレンダリングエンジン(ほとんどがWebKitベース)は比較的モダンで、モバイル向けの開発ではデスクトップ版でありがちな大昔のブラウザ対策をしなくてはいけないというような事は発生しない。
モバイルデバイス上でのHTML5の普及率はデスクトップ上でのFlash Playerのそれに近いものがある。ということは、それがモバイルデバイス向けのリッチコンテンツを開発するのに最適な技術だということなのだろう。
私たちのゴールはモバイルデバイス上でのFlash Playerに関してもデスクトップと同じレベルの普及率を得ることだったのだが、残念ながらそこまで到達しなかったし、今後もそうなることは無いだろう。
デスクトップ上では、ユーザーは(ゲームやアプリケーションのような)リッチコンテンツをブラウザ、ネイティブアプリケーション、両方を使用して閲覧してきた。対してモバイル上では、ユーザーはリッチコンテンツの閲覧にアプリケーションだけを使う傾向にあるようだ。モバイルプラットフォームはアプリケーションストアとそのOSを融合させることで、ユーザーが簡単に新しいコンテンツやアプリケーションを見つけられるようにした。そのおかげで、ユーザーはモバイル上でWebを閲覧する際には、一般的にゲームやアプリケーションのようなリッチコンテンツを求めていない。
これにはいくつかの理由が挙げられる
現状で、ユーザーがモバイルデバイス上で何かゲームをしたくなったら、彼らは単にアプリケーションストアを起動するだろう。これがゲームを見つけるのに一番簡単な方法だからだ。そして、このアプリケーションという概念のおかげで、ユーザーはネットワーク状況に関係なく、すぐにコンテンツにアクセスできるようになった。
つまり、そもそものユーザー傾向の時点で、モバイル版Flash Playerはデスクトップ版に比べてそこまで必要とされていないのだ。
モバイルブラウザ向けのFlash Playerを開発することは、私たちが当初想定したよりも遥かに多くのリソースが必要だった。デスクトップブラウザ向けのプレイヤーを作るときには、各ブラウザが提供してくれるAPIを利用すればそれで問題ない。実際、私たちは各ブラウザベンダー(Googleや、Apple、Firefox、Microsoftなど)とも良好な関係をとりあってはいるものの、基本的には既存のAPIを使っているだけだ。
対してモバイル上のエコシステムに載せる場合、非常に多くの分野のエンジニアたちと密接にやりとりをしなくてはならない。
どの分野の人たちとも良好な関係を築いてはいるものの、これだけ多種多様な組み合わせがあると、それに対応するリソースもかなりの量にのぼる。新しいデバイスやブラウザがリリースされるたびに、Flash Playerを開発し、テストし、保守するためのリソースが増えるのだ。これを今後も続けていくのはかなり厳しい。
ここでAIRは違うのかという質問もありそうだが、AIRの開発に関してはそこまでFlash Playerと比べてそこまでリソースが必要とされない理由がいくつかある。OSのAPIはしっかりと定義されているし、新しいブラウザのバージョンに左右されることもない。そして、結果論になってしまうが、AIRを用いて成功したアプリケーションを開発している人たちが大勢いるという事実も、私たちがAIRのモバイル版を継続していく理由のひとつだ。
最後に、モバイル、デスクトップ双方におけるHTML5の発展を鑑みて、私たちはHTML5とFlashに対してより平等にリソースを分けることにした。
モバイルデバイス向けFlash Playerの開発を停止することによって、HTML5向けのツールやフレームワーク、ブラウザへの開発リソースが捻出できる。
みながこの結論に対して賛同できないのは仕方がないことだ。ただ、これらのポイントを踏まえ、今後さらに複雑化し高価になっていく開発のことを考えると、モバイル版Flash Playerに対して、これ以上のリソースをつぎ込むのはベストではないということが、私たちの判断なのだ。
今回の発表を受けて、このモバイル版Flash Player開発を止めるという事実に対する反応もあったことはあったのだが、実際に私が耳にした反応の多くは、この決定が今後のFlash Platform全体に対してどのような影響をおよぼすのかという、疑問、混乱だった。実際のところどうなのだろう?デスクトップ版Flash Playerの開発も止まってしまうのだろうか?Flashは死んでしまったのだろうか?
まずはハッキリさせておこう。色々と言われてはいるものの、Flashそのものが死んでしまったわけでは決してない。フォーカスや役割は確かに変わってきた、それでも私たちは今でもFlashがWeb上でもモバイル上でも重要な役割を担っていると信じている。
デスクトップ版とモバイル版、両方でAIRの開発は継続する。実際、AIRを利用して大ヒットしたアプリはたくさんあるのだ。最近の事例を挙げると、Machinariumや Watch ESPN あたりだろうか。個人的なお気に入りはtweet huntだな。
Flashは今までと同様、Flashでなくては実現できない機能を提供し続ける。これまでもずっとデスクトップ版Flash Playerに関してはその方針で開発が行われてきたし、それは今後も同様だ。
もちろん、HTML5に対応したブラウザが増えるに従って、Flashの役割は変わってくるだろう。近い将来では、Flashは特に高度なビデオやグラフィックに特化したゲームといった部分に強くなるはずだ。
今、開発中の機能としては以下のようなものがある
また、長期的観点からいくと大きなアーキテクチャの改変も行っていて、これはFlash Playerとデベロッパー双方にいいことがあるはずだ。これに関しては、まだまだ序盤だが、数カ月後にはもう少し情報を出せると思う。
Flexに対しても、多くの懸案事項があることは知っている。Flexチームが別に情報をポストしたので詳しくはここ(日本語訳)を見て欲しい。
Flash Professionalについては、先日別に語ってあるのでそちらを参照して欲しい。基本的には今後も積極的に開発を続けていく予定だ。(訳註:こっちのポストは訳してる余裕がありませんが、MikeはFITC TOKYOに来るのでその時にFlash Professionalについて色々と話してくれるそうです。)
最後に、HTML5とFlashについて私なりの考えを記しておきたい。
その始まりからして、Flashの役割はWeb上でFlashにしかできない表現を提供することだった。過去を振り返ってみると、アニメーション、ベクターグラフィックス、サウンド、ビデオ、ウェブカム、マイクなどなど、その普遍性と新バージョンが普及する速さから、Web上で新しい機能を導入するにはうってつけの環境と言える。
そして、時の経過と共に、それらのFlashの機能はブラウザ自身にも組み込まれる。Flashだけで実現可能だったことが、ブラウザ単体でもできるようになり、そして、そFlash Playerは新たな機能を追加する、というサイクルがずっと繰り返されてきた。これがFlashの歴史であり、今後も続いていくのだと私は予想している。実際、この流れはどの立場にもメリットをもたらしているのだ。ユーザーはリッチなコンテンツをすぐに享受できるし、アドビは技術やツールを売ることができる、そしてブラウザベンダーはFlash Playerが先行した中から人気だとわかった機能から実装すればいい。
ここでキーになってくるのは、もしある機能がFlashで実装され成功したのならば、その機能はその後ブラウザにも搭載され、結果的にデベロッパーはFlashからではなくブラウザから直接使うようになるということだ。
最近のブラウザ間での競争や、HTML5での新機能サポートのおかげで、ブラウザ単体でできることが劇的に増えたのだが、その中にはかつてはFlashの独壇場だった機能も多く含まれている。まだHTML5/CSS3がFlash Player並に普及しているとは言い難いが、今後の方向性はハッキリしている。これからは過去にFlashを用いて実現されていた多くのことが、HTML5とCSS3によって直接ブラウザ上でできるようになってくるだろう。
大切な事なのでもう一度言っておく。
これからは過去にFlashを用いて実現されていた多くのことが、HTML5とCSS3によって直接ブラウザ上でできるようになってくるだろう。
Flashを使って仕事をしている人にとって、この事実が恐ろしく聞こえるのはしかたない。しかし、私にはFlashコミュニティにとってここに大きな可能性が広がっているように思えるのだ。ブラウザ単体でリッチなコンテンツやモーショングラフィックスを実装できるようなれば、それらをWeb上で作った経験のある人材が必要とされる。そしてFlashコミュニティは過去10年以上にもわたって、その種の仕事を行ってきたのだから、この似た仕事に対応できる資質があるはずだ。現時点でHTML5を用いて製作された最先端のグラフィックコンテンツが、Flash経験者の手によるものだという事実は決して偶然とは思えない。(例えば、Grant Skinner, Branden Hall, Big Spaceship, etc…)
もちろん、すべてのFlashコンテンツがHTML5になるべきだとは言っていない。すべてのプロジェクトはケースバイケースで扱われ、開発コストや対応するプラットフォーム、そしてユーザーによって使用される技術は決められるべきだ。たとえ顧客がHTML5がいいと言ってきたとしても、技術やプラットフォームの話はおいておき、彼らが本当に何を必要としているのかを考えてあげて欲しい。
想定していたよりもかなり長くなってしまった。でも、この数日間に私の頭を駆け巡った多くのことを皆と共有しておきたかったのだ。最後にもう一度だけ強調しておく。今回のアドビの発表に対して、皆がどれほどフラストレーションが溜まったかは理解しているつもりだ。それに対しては素直に謝っておきたい。私たちはもっと分かりやすくコミュニケーションをするべきだった。
疑問やコメントがある場合はコメント欄にポストして欲しい。その際は、あくまでもトピックに沿った形で建設的にお願いしたい。
--翻訳文オワリ------
なお、このページにコメントを残していただいても構いませんが、こちらに書かれたコメントに対してF-siteはMike及びAdobe関係者に伝える責務は負わないものとします。本人へのコンタクトは彼のブログへ直接どうぞ。また、本文中でも触れていますが、MikeはFITC TOKYOにもやってくるらしいので、気になる人はその時に質問攻めにしてしまいましょう。
p.s. special thanks @otachan for 技術方面翻訳チェック
p.s. p.s. この件に関して全く個人的な見解は自分のブログの方にも書いておきましたのでよかったらこっちもどうぞ。
この記事へのコメント
●1.詠み人知らず(2011年11月19日 20:14)
原点に戻るのがいいんじゃないですかね?
アートツールとしてのFLASH