こんにちは、世界一周バックパッキング中の小野田です。既にご存知の方も多いとは思うのですが、6月号で僕も連載記事を書かせてもらっていたAdobe Edgeニュースレターの日本語版が一旦お休みに入ってしまいました。実はそのお休みの内部連絡が来る直前にパリで一本インタビューを行っていたのですが、この内容を宙ぶらりんにさせておくのは勿体ないということで、このF-siteの場を活用させてもらい、皆さんにお届けしたいと思います。
ルーブル美術館内で
さて、今回の滞在先は前述にもある通り、芸術の都、巴里です。実は当地ではこのインタビューの他にもFlashDevelop 開発者の Philippe さんに MacBook を贈る会という面白い企画の実行役をやらせて貰ったりして、あまり観光らしき観光はできていません(ルーブルにはなんとか行きましたが。)それでも、ただ散歩をしているだけでこの街の魅力にとりつかれてしまいました。街並みが美しく、パリっ子たちが優雅にカフェでおしゃべりをしている姿を見ると僕もその中に混じりたくなります。本当にチャンスがあればいつか住んでみたいですね。
今回はそんなオシャレ都市パリでもトップを走るWebデザインスタジオ、Soleil Noirに伺いお話を聞いてきました。対応してくれたのはOlivier MarchandさんとMathieu Vignauさんのお二人。広々としたオフィスにはゲームの筐体なども置かれ、クリエイティブの雰囲気がいっぱいに広がっていました。
Olivier:Soleil Noirは2000年にOlivier MarchandとBenjamin Laugelの二人が興したクリエイティブスタジオです。最高品質のWebサイトをクライアントに提供するために、およそ20人くらいのスタッフとともに働いています。htmlサイトを作るのは年に一度あるかないか位で、普段は主にFlash Platformを活用し、ネスプレッソやサムソンなどの大手企業のプロモーションサイトを作っています。
フランスのこの業界内では広告代理店が幅を利かせ、webは他の広告のおまけのように扱われることも多いのでです。ただ、我々に関してはこの限りではありません。最近はクライアントが自ら私たちのWebサイトや制作物を見て直接コンタクトをしてくれることが多いのです。「すごいの作ってますね。よかったらうちのもやってくれませんか?」と。そうやって代理店を飛び越えて制作ができる方がやりやすいのは間違いありません。
代理店がデザインの成果に求める物はまず第一にお金で、クオリティは予算の範囲内にということが殆どなのですが、私たちはそれ以上に自分たちの制作物に対して情熱を傾けています。おかげで多くのクライアントといい関係を築けていますよ。例えばディズニーとは既に7年ほど一緒に仕事をしていますが、彼らとは単にクライアントと業者という関係ではなく、彼らのチームの一員として時にはクライアントにWebについてのレクチャーをしながら、ともに素晴らしいサイトを作ろうというパートナーシップが出来上がっています。
Olivier:そうですね。私たちが、SODA(http://sodaspeaks.ning.com)というWebスタジオグループのメンバーだという事は知っていますか?主に北米にある会社を中心にした組織なのですがBigspaceshipなどの大手スタジオが参加してています。昨年、ラスベガスでミーティングの機会があったのですが、その時に彼らと話をしたのは「で、どうやって仕事をしているの?」ということでした。私たちはフランスではベストの仕事をしているという確信がありましたが、それが世界基準としてどうなのか。海外でのやり方を聞くことはとても興味深かったです。そして、皆で話していた中で重要とされていたのが、クリエイティブな視点、誠実さ、そして情熱です。
この階下はフォトスタジオになっているそうです
Olivier:ネスプレッソの限定コーヒーのプロモーションサイトです。このサイトではユーザーとのインタラクションに重きを置いた構成になっています。実はネスプレッソにとってこの手のクリエイティブなサイトを作るのは初めてのことなんですよ。普段はもっと製品情報にフォーカスを当てたサイトが多かったのですが、今回はユーザーエクスペリエンスを全体に押し出すという方向性をもとにプロジェクトが進みました。このサイトでは意図的に隠されたリンクやボタンを設けてありまして、これらのボタンをクリックしていくことでユーザーは予想外の体験ができるのです。このプロジェクトではコードだけではなくそれを越えたイマジネーションとアイディアが要求され、私たち自身としても新しい試みとなったのですが、クライアントにも満足してもらえるクオリティが提供できたと自負しています。
Olivier:Alfa Romeoの159という車種のプロモーションページです。少し前のものになりますが、このサイトはFWAのSite of the MonthやヨーロッパAdobe MAX、フランス国内の広告賞(Cleb Des Directeurs Artistiques awards)でも表彰されたサイトで、我々のような小さな制作会社には非常に意義のあるサイトです。各ページでこの車に与えられた5つのテーマをもとにそれぞれ異なった音楽と映像が流れます。ちょうどh.246のビデオがFlashPlayerで見られるようになった頃だったのですが、当初はPlayerの問題もかなり多く、Adobeの担当者と直接話をしながら問題を解決していきました。彼らとの対話からは学ぶことも多く私たちの制作に対するモチベーションアップにもつながりました。ちなみに、全てのページを見るとちょっとしたプレゼントを貰えるので試してもらいたいですね。私たちはこういう仕掛けが大好きなんですよ。
Olivier:フランスの電気自動車のサイトです。その外見から消費者からは「おもちゃのような車」というあまり好ましくないイメージがを持たれていたのですが、コミカルな音楽やアニメーションエフェクトを多用したこのサイトのおかげで、「愛らしい車」と方向性が変わりました。実際、彼らは他に何も広告を打っていないのですが、このサイトのローンチ後には試乗の問い合わせが急上昇しました。
Olivier:広告代理店などで使用される音源のサウンドバンクサイトです。カテゴリやキーワードをクリックしていくと、リアルタイムで候補の音楽が絞り込まれます。この手のサイトはつまらないチェックボックスだらけのサイトになりがちなのですが、本当はもっとクリエイティブな見せ方があるのです。このプロジェクトにあたって、私たちはひとつの初めての試みをしてみました。社内の開発者を呼んでこう伝えたのです「このプロジェクトの担当者はキミだ。もちろん、デザイナー達が助けはするけどクリエイティブも含めてキミがこのサイトを作り上げる」と。Soleil Noirは普段は作りこまれた美しいグラフィックを売りにしているスタジオなのですが、このサイトには数種類の色とテキストボックスしかありません。このプロジェクトは関わった全ての人にとって新しく、完成版のコンセプトに辿りつくまでには多くの議論が交わされました。そして最終的にこのサイトはFITCのユーザビリティ部門を受賞したのです。
Olivier:私たちにとって音楽というのはビジュアルと同じくらい大切で社内には複数名のサウンドデザイナーがいます。もう5年くらい前になるでしょうか、あるプロモーションサイトに既成の音源を使いそれをFWAに登録したことがあったのですが、なんと他のFWA受賞サイトもその音源を使っているではないですか。それ以降、基本的にサウンドバンクの類は使わない、全ての音源は私たちの制作によるオリジナルにすべきという事で落ち着きました。これもSoleil NoirによるサイトのDNAの一部です。
引っ越したばかりだという真新しいオフィス
Olivier:ただ才能に優れていること。これに限りますね。学歴、年齢、国籍などは全く関係ありません。ただ素敵なポートフォリオをうちに持ってきてくれればいいですよ。あとはその人が我々にとって新しいスキルを持っていると嬉しいですね。Soleil Noirには既に様々な才能を持ったクリエイターが在籍していますが、彼らにはできない何か新しいことというのは非常に魅力的です。もちろん、どの国の人でも歓迎しますよ。まぁ、これに関しては我々フランス人に英語という課題を与えてくれるのですが、それもいずれは克服しなくてはいけないことですし。世界中の価値観をチームの中に組み込めるのはいいことだと思います。
Olivier:一番大切なのは、自分たちのしていることに対する自信ですね。クライアントは彼らの欲しいものを教えてくれますが、それを単に鵜呑みにしないことです。Webに関してはこちらがプロなのですから彼らの要求を噛み砕いて、自分たちの考えうる最高の仕事を提供するのです。うちに依頼してくれば最高の成果を出しますよ、というのが我々の約束なのです。ところで、この私たちのビデオを見てもらえますか?Soleil Noirがどういう会社なのかがよくわかると思います。
Olivier:これからも更にオリジナルな作品を作り続けていきたいですね。物語的なサイトや感情に訴えかけるサイトを増やしたいです。あとは技術的にはTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワーキングサイトと連動したページも増えると思います。もちろん使いすぎは禁物ですよ。これらのサイトは今までのプロモーションサイトとは完全に違うものです。よくプロモーションサイトを止めてソーシャルネットワーキングサイトに移るというような話を耳にしますが、本当はこの二つをうまく融合させて独創的なサイトを作ることが大切なのです。あと、最後にもう一つ重要なことは、我々はこれからも楽しみながらサイト制作を続けていくということを付けくわえておきましょう。正直、10年前は自分たちの将来を若干心配もしたものです。もしかしたらこれからはネット以外の何かを作らなくてはいけないかもしれない…。でも、今は目の前にたくさんの興味深いことが広がっています。これはとても素晴らしいことですね。
向かって一番右側の方がOlivierさん、左から2番目の方がMathieuさん
本文中にもありますがWeb制作に対する情熱がひしひしと伝わってくるインタビューでした。それにしても世界中のどの会社と話しても大切にしていることが近いというのは面白いですね。「クリエイティブな視点、誠実さ、そして情熱」僕自身も帰国後はこの3つを胸に刻みながら仕事と向き合いたいと思います。
旅はまだまだ終わりません
このエントリーを執筆時点で僕はプラハに滞在中です。そしてこれからは北欧を回った後に9月中ごろにはイギリスから北米に移動予定なのですが、このエリアは世界的に有名なWebデザイン会社が目白押しなんですよね。Adobeのお代紋は無くなってしまいましたが、これはもしかして月刊という縛りに囚われずに好き勝手にインタビューしてしまえという、何かのお告げなのではないかと考えたくなってきました。というわけで、今後も不定期にはなりますが各国の制作会社とうまいことコンタクトが取れた際にはF-siteに掲載できればいいなと思っています。